偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
 あからさまにがっかりする母に、慌てて補足する。

「あの、今日は夕方までいるし、次の休みにも来るから」

「ありがとう……花穂も忙しいのに心配かけてごめんなさい」

「大丈夫だから気にしないで」

「でも、娘に迷惑をかけるなんて……」

 しゅんと悲しそうにする母から花穂は目を逸らした。

 焦燥感が混み上げてくる。

(退院した後も治療を続けなくちゃいけないのに、家がなくなるなんて知ったらどんな気持ちになるのか)

 母は二十二歳で父と見合い結婚をして以降、ずっと専業主婦だ。

 万全な体調でも就職出来るか分からないのに、現状では無理としか思えない。

 昔から父に強く意見出来ない人で、母親としては頼りなかったけれど、おっとりと優しい母を幼い花穂は慕っていたのを思い出した。

 花穂は結局父にも母にもはっきりした返事が出来ないまま東京の自宅に戻った。

 カフェ開業の夢を持ってから、いつも感じていたやる気や充実感の代わりに、倦怠感と諦めが心を占めている。

 口には出していないながらも、もう決心しているからだ。

(選択肢なんてないも同然なんだもの)
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