偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
 伊那の声から悔しい気持ちが伝わってくる。それは花穂も同じだった。

「すごく残念だけど、カフェは結婚した後からでも出来るかもしれないし、勉強して来たことは無駄じゃないと思いたい」

『理解してくれそうな相手なの?』

「分からない。相手について聞きそびれちゃって、もちろん身上書も見てないから」

 現実から目を背けたかったというのが真実だ。

『もう。そこはちゃんと見て来なさいよ!』

「うん。それより急で申し訳ないけど、カフェの仕事を続けられなくて」

『花穂が抜けるのは痛手だけど、今は気にしないで。まずは家の問題をなんとかしないと。私も考えてみるからまめに連絡してよ』

「分かった」

 親身になってくれる伊那に感謝の気持が生まれる。何でも話せる親友がいてよかった。

「愚痴を聞いてくれてありがとう。なんとか頑張ってみるから」

『うん、その意気だよ。状況が変わるかもしれないし諦めないでね』

 電話を切った花穂は、沈みそうになる気持を振るい立たせた。

「やることが山積みだから落ち込んでる暇なんてない」

 花穂はスマートフォンを仕舞い立ち上がる。

 まずは引っ越しの準備をしなくては。三年暮した部屋を片付けるのは大変そうだ。

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