偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
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カフェアリビオの扉を開くと、カランと柔らかなベルが鳴る。
六条響一は店内に入ると素早く視線を巡らせてから、僅かに顔を曇らせた。
いつも接客してくれる女性スタッフ――城崎花穂の姿がどこにも見当たらないからだ。
オフィス近くにオープンしたこのカフェを訪れたのは気まぐれだった。けれど思ったよりも居心地がよく、気付けば定期的に通うようになっていた。
ひとりでゆっくりひと息ついたり、時には考えを整理したりするのによかったからだ。
けれどいつからだろうか。目的が花穂に会うことに変っていた。
白いシャツに細身のパンツ、ダークブラウンのエプロンというシンプルな制服を着た彼女は、特別目立つ外見をしている訳ではない。
自然な焦げ茶の髪はひとつにまとめ、メイクもあまり色味を感じさせないものだ。ただいつ見ても清潔感に溢れている。
染みひとつない白い肌に日本人にしては明るい虹彩。彼女の澄んだ瞳に見つめられると、柄にもなく鼓動が乱れた。