偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる

　花穂は彼女をいつも好んで座るカウンター席に通しオーダーを受ける。するとまたすぐにドアが開いた。

　平日の午後九時前は意外に客足が多く忙しい。特に今日はもうひとりのバイトが体調不
良で休みを取ったため、ひとりでホールを回さなくてはならない。

　花穂は慌ただしく動き回り、気付いたときには、十時の閉店時間になっていた。


　客がいなくなった店内の清掃を素早く済ませた花穂は、スタッフルームに入った。

　ダークブラウンのエプロンを外し、制服の白いシャツと黒いパンツから、私服のシンプルなシャツと膝丈スカートに着替えをする。

　ひとつに纏(まと)めていた癖のないセミロングの髪をほどき、鏡を見ながら手早く直した。

　メイク直しは殆(ほとん)ど不要。花穂の顔はどのパーツも主張がなく端的に言うと地味。化粧映えするタイプだが、普段は簡単なメイクで済ませている。

　これで帰り支度完了。姿見でおかしなところがないかチェックをしてから、スタッフルームを出てフロアに戻る。

同じタイミングでキッチンから大きなトレイを持った若い女性が出て来た。