偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる

　このカフェのオーナー兼料理人である加納(かのう)伊那(いな)だ。

　百六十センチの花穂よりも十センチ以上高い長身の彼女はスタイル抜群で一際目立つ。中性的な小さな顔にくせのあるショートヘアがよく似合い、立ち振る舞いに気品が滲み出ている。

　花穂と彼女は幼馴染で中学を卒業するまでは同級生だった。

　家庭の事情で別の高校に進学したものの離れてからも交流が続き、三年前に仕事を探していた花穂に彼女が声をかけてくれた。

　はじめは正式に就職が決まるまでの繋ぎのつもりだったが、カフェでのバイトがすっかり気に入り今もまだ続いている。

「お腹空いてるでしょ？　早く食べよう」
「うん」

　ときどき閉店後に伊那とふたりで遅い夕食を取る。メニューは余り材料の作ってくれる
賄(まかな)い料理だ。

「今日はカレーなんだね」
「そう。今日は日替わりセットが全部出てこれしか余ってないから」

　花穂はトレイに乗っているふたり分のカレー皿をテーブルに並べて席に着く。

「いただきます……美味しい！」

　ほろほろと口の中で塊肉が解ける程よく煮込まれている。