偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
(ああ、私、響一さんともっと親しくなりたいと思ってるんだ)

 かりそめの夫婦だからある程度の線引きが必要だと思っていた。けれど響一の方がどんな形にせよふたりの縁を大切にしようと思ってくれているのなら、花穂も素直に彼の好意を受け取っていいのではないだろうか。

(彼の言葉を無視して、自分の気持を押さえて、頑なに距離を置こうとする方が間違っているんじゃないの?)

 だって響一は初めから花穂に対して優しくていつでも気遣ってくれていた。

 それなのに頑なになっていたのは、間違いなく花穂の問題だ。

 支援して貰う側という弱い立場が、余計な感情を抱いては駄目だとストップをかけるというのもあるが、一番は過去の出来事だ。

 どうしても以前の婚約失敗の件が頭を過ってしまう。

 響一は元婚約者とは違う。そう分かっているのに同じような痛みを二度と味わいたくないと思うあまり、臆病になっている。

(でもこのままじゃよくないよね)

 嫌な記憶を克服して前に進むためには、まず花穂自身が変わらなくては。

「響一さん……私、よい夫婦に慣れるように頑張りたいです」

 花穂にとっては素直な気持ちを伝えるよりも、予防線を張って傷つかないようにする方が楽だ。けれど勇気を出して想いを口にした。

「ああ」

 響一は輝く笑顔になる。

(響一さん嬉しそうに見える。思い切って伝えてよかった)

 夫婦になったこの日はとても嬉しい大切な思い出になったのだから。


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