桜ふたたび 後編
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そうして、ジェイはニューヨークへ戻ってきた。

彼の復帰は、AXに今までにない高揚感をもたらした。

これまでも、神懸かり的な閃きと天授の交渉能力で〝M&Aの魔術師〞と呼ばれ、AXの旗手として活躍を続けてきた彼は、マスコミのバッシングを受けようと、カリスマ的存在に変わりない。

空席となったCEOに、スーザン・バーノルズが就任したとき、彼らは心の中で一斉にブーイングした。
トミーの不正を暴いた功績が認められての抜擢だが、その情報がジェイによってもたらされたことは、誰の目にも明らかだったからだ。

それどころか、ジェイはCOOにも返り咲かなかった。
マネージングディレクター。それが彼に与えられたポジションだ。

誣告によって名誉毀損されたジェイは、被害者だ。だが、その後の対処が悪かった。
彼の沈黙に投資家の不安は煽られ、AX関連株は大暴落した。
〈株主に多大な損害を与えた〉こと。それが降格の理由だった。


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『なかなか趣のあるオフィスですね』

復職を果たしたレオが、開口一番、愉快そうに言った。

オフィスフロアの片隅に急拵えで作られた、手狭で粗末なブース。
整然と積まれた大量の段ボール箱。数台のPCが置かれただけのミーティングテーブル。ガラスのパーティションから内部は丸見えで、防音性も皆無。機密性がないどころか、これでは見せ物だ。

〝サンクチュアリ〞と崇められた彼らに、今後は可視化しろという、スーザンからの暗黙の意思表示だろう。

『寓居に過ぎませんから』

リンは、ファイルの背ラベルを確かめながら、迷いなく書類を仕分けていく。
その手に復讐心のような力強さを見て、レオは同感と頷いた。

パンツのポケットに片手を突っ込んで、窓辺で空を見上げていたジェイが、さっと体を反転させた。

『それでは、はじめよう』

彼の背後には、目の覚めるような青空が広がっている。

リンとレオは、まるでメシアの復活を前にしたかのように、目を細めて仰ぎ見た。

スリルに満ちた日々が、再びスタートしたのだ。
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