桜ふたたび 後編

4、ヤマボウシ

サロンの正門の脇で、夕陽を浴びたヤマボウシの赤い実を、小鳥が啄んでいる。
木々が色づくには早いけど、庭を飾る花々の彩りは日に日に寂しくなって、秋草の乾いたた甘い香りが、ゆるい風に運ばれてきた。

「澪さん?」

澪は「シッ」と唇に人差し指を立てた。

「あら?」
優子は微笑ましそうに足を止めた。

「シジュウカラね」
董子も声を潜めて続く。

「まあ、お詳しいんですねぇ」
萌愛が感心した声で、梢を見上げる。

「これでもバードウォッチングが趣味なの。釣りじゃなくて」

クスクスと、和やかな笑いがさやいだ。

最近、みんなの毒気が抜けたような気がする。結婚準備が忙しい茉莉花がいないからなのか。

人は〝核〞を見つけて集まろうとする。そうして群れが形成されると、一人ひとりの本質は違うのに、リーダーの個性に引き摺られてしまう。
結局、みんな自分に自信がない。澪と同じ──。

足音を忍ばせて門を抜けたとき──

「澪!」

とたんに、小鳥たちが木々を揺らして一斉に飛び立った。
唖然と空を見上げていた澪は、顔を戻して目を白黒させた。
< 111 / 270 >

この作品をシェア

pagetop