桜ふたたび 後編

4、ヤマボウシ

サロンの正門の脇で、夕陽を浴びたヤマボウシの赤い実を小鳥が啄んでいる。木々が色づくには早いけれど、庭を飾る花々の彩りが寂しくなって、秋草の乾燥した甘い香りが風に運ばれてきた。

「澪さん?」

澪はシッと唇に人差し指を立てた。

「あら?」

と、優子は微笑ましそうに足を止めた。

「シジュウカラね」

と、董子も声を潜めて続く。

「まあ、お詳しいんですねぇ」

と、萌愛が感心した顔をする。

「これでもバードウォッチングが趣味なの。釣りじゃなくて」

クスクスと和やかな笑いがさやいだ。

近頃、みんなの毒気が抜けたような気がする。挙式を目前に控えた茉莉花がいないからなのか。

人は核を見つけて集まろうとする。そうして群れが形成されると、一人ひとりの本質は違うのに、リーダーの個性に引き摺られてしまう。
結局みんな自分に自信がない。澪と同じ。

足音を忍ばせて門を抜けたとき、

「澪!」

とたんに、慌ただしい声を上げ木々を揺らして鳥たちが一斉に飛び立った。
唖然と空を見上げていた澪は、顔を戻して目を白黒させた。
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