桜ふたたび 後編
❀ ❀ ❀


水滴で曇った窓の向こう。さっきまであった薄い斜光も、すっかり消えてしまった。
室内は心地よく暖かいけれど、外はずいぶん寒そうだ。

澪は、飽きもせず、ソファに眠るジェイの寝顔を見つめていた。

この三日間、ジェイは朝六時に出掛けて、午前三時過ぎに帰宅する日が続いた。
さすがに疲れたのか、今日は昼過ぎに戻ってきて、死んだように眠りこけている。

ベッドで寝るようにお願いしても、寝過ごすからと聞き入れてくれなかった。
ブランケットをかけようとした澪の手を握って、あっという間に寝入ってしまったのだ。
起こすのも気の毒で、澪は床に横座ったまま、ずっと身じろぎもできずにいた。

澪は壁時計を確認した。
19時の羽田発だと言ってたから、そろそろ準備しなければならない。

空いた手で彼の髪を撫でながら、澪は大きく息をついた。

──ジェイが無理をしたのは、わたしのせいだね。

彼の他になにもいらないと言いながら、なにかあるとすぐにふらついて、いつも不安定で心弱いから、彼が案じて立ち止まる。
そして後から、必ずしわ寄せが彼にやって来る。
〈決して引き留めない〉というリンとの約束を、裏切ってばかりだ。

澪はそっと、ジェイの額に触れた。

──こんなふうになってまで、わたしを愛してくれる。

なんて可愛くて、愛おしいひとだろう。
このひとを守ってあげたい。自分のすべてを捧げ、どんな苦しみからも、哀しみからも、孤独からも、不安からも。

──ああ……これが、愛するということなんだ。
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