桜ふたたび 後編
Ⅶ カメオ

1、師走の出来事

「えええ!?」

素っ頓狂な澪の声に、ウエイトレスがトレイのコップを倒した。

街は華やかなクリスマスモード。赤レンガの駅舎もライトアップされ、クリスマスソングが流れるショコラティエの窓外には、シャンパンカラーに光り輝くイルミネーションの並木道が見える。

「そやからさ、違たんよ」

千世は、クリスマスバージョンにデコレートされたパフェを頬張りながら、事もなげに言う。

あれからふた月、澪自身にも辛いことがあって、千世にこちらから連絡するのも憚られていた。
そっちに行く用事があるからと、電話があったのは三日前。結論が出たのだと胸が苦しくなる思いをしていたら、千世は上機嫌でテーマパークのクッキーをお土産だとくれた。

「どうしてわかったの?」

「お義姉さんがな、赤ちゃんの血液型を調べてもらおうって言い出さはったん。脩平はRHマイナスのAB型、遺伝してるかもしれへんしって。彼女はO型で、何でかしらんけど、脩平も同じO型やと思い込んでたらしいわ」

話の続きを固唾を呑んで待っている勘の悪さに、千世は笑い出した。あんまり笑いすぎて、変なところへ入ったのか、ゴホゴホと咳き込んでいる。

「本当の父親はO型なんやろね。そやから生まれてくる赤ちゃんは100%O型やて彼女わかってたんや。ところがAB型とO型からはO型の子どもは絶対にできひん。お義姉さんの勘が当たって、彼女、ぜぇんぶ白状しやはった。同窓会で再会して、酔っ払ってホテルに泊まっただけやって脩平も言うてたし、産み月が合わへんからおかしいとは思うててん。男ってアホやな、ころりと騙されて」

「騙されたとかの問題じゃないよ」

澪は顔を真っ赤にして憤慨した。そのためにどれほど千世が傷ついたか。
< 142 / 271 >

この作品をシェア

pagetop