桜ふたたび 後編
❀ ❀ ❀
会場の外は、嘘のように閑散としている。
宮殿のような廊下の角を曲がると、その先は硝子張りの渡り廊下。
靴音が乾いた音を響かせるほど、冷たい静けさに充ちていた。
その中程に、リンと密談を交わすジェイの後ろ姿があった。
『何を企んでいるの?』
リンが去るのももどかしく、ジェイの背中に言葉を投げつける。
ジェイは肩越しに、表情のない顔を向けた。
『君には、するべきことがあるはずだ。せっかくのチャンスを無駄にするな』
『AX以外のスポンサーがつけば、私の縁談で脅迫されることもなくなるってこと?』
ジェイは、ゆっくりと硝子の外へ顔を向けた。
雪は止み、澄んだ月明かりに照らし出された純白の庭園が、凍てついた幽玄の世界を創り上げている。
『澪は……流産した』
──流産……?。
ルナは口の中で繰り返し、その言葉の意味に愕然とした。
〈大丈夫です。ジェイを愛していますから〉
あのとき、あれほど強い澪の声を訊いたのは初めてで、一瞬別人の声かと思った。
そう、別人格だったのだ。愛する男の子どもを身ごもり、母となる女の声だったのだから。
──なんてことを。迂闊だった……。
ジェイは冷たいガラスに片手をつき、地獄の門でも開けそうな口調で告げた。
『私は……澪を守るためなら、不義も悪逆も厭わない。地獄に堕ちろと言うなら、歓んで堕ちる。
──君も、覚悟しておいてくれ』
そして、一拍の沈黙をおいて、踵を返す。
蒼白い炎をまとったような、その烈しい後ろ姿に、ルナの背中を、すうっと冷たいものが這い上がった。
会場の外は、嘘のように閑散としている。
宮殿のような廊下の角を曲がると、その先は硝子張りの渡り廊下。
靴音が乾いた音を響かせるほど、冷たい静けさに充ちていた。
その中程に、リンと密談を交わすジェイの後ろ姿があった。
『何を企んでいるの?』
リンが去るのももどかしく、ジェイの背中に言葉を投げつける。
ジェイは肩越しに、表情のない顔を向けた。
『君には、するべきことがあるはずだ。せっかくのチャンスを無駄にするな』
『AX以外のスポンサーがつけば、私の縁談で脅迫されることもなくなるってこと?』
ジェイは、ゆっくりと硝子の外へ顔を向けた。
雪は止み、澄んだ月明かりに照らし出された純白の庭園が、凍てついた幽玄の世界を創り上げている。
『澪は……流産した』
──流産……?。
ルナは口の中で繰り返し、その言葉の意味に愕然とした。
〈大丈夫です。ジェイを愛していますから〉
あのとき、あれほど強い澪の声を訊いたのは初めてで、一瞬別人の声かと思った。
そう、別人格だったのだ。愛する男の子どもを身ごもり、母となる女の声だったのだから。
──なんてことを。迂闊だった……。
ジェイは冷たいガラスに片手をつき、地獄の門でも開けそうな口調で告げた。
『私は……澪を守るためなら、不義も悪逆も厭わない。地獄に堕ちろと言うなら、歓んで堕ちる。
──君も、覚悟しておいてくれ』
そして、一拍の沈黙をおいて、踵を返す。
蒼白い炎をまとったような、その烈しい後ろ姿に、ルナの背中を、すうっと冷たいものが這い上がった。