桜ふたたび 後編

やがて、歌姫夫妻がアブドラたちの輪に加わり、彼らのまわりは一層華やかさを増した。
ニューヨーク・メトロポリタン・オペラでの公演活動が多いエリカは、ジェイやクリスとも親交が深い。

『いかがです? 彼』

ステージで拳を挙げ歌い上げる青年を見つめながら、エリカが誇らしげに微笑んだ。

『さすがディーヴァが目をかけることはある。まだ若いが、どこか懐かしく切ない、佳い声をしている』

『テクニックはまだまだ未熟ですが、この声はヒデの唯一無二の武器になるでしょう。
でも、残念ながら、彼を発掘したのはジェイです』

『ほう、あなたは目だけではなく、耳もいいのか』

『そのうえ口も達者ですわ』

クリスのジョークに、アブドラは腹を抱えて笑った。

弾む会話の輪をそっと離れ、ジェイが会場を抜け出すのを見て、ルナはその後を静かに追った。
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