桜ふたたび 後編
肝心のサーラの表情は堅い。テーブルに着く前から顔色も冴えず、フォークを持つ手元もどこか頼りない。
ジェイはゆっくりと首を回して、サーラの横顔に低く問うた。
[あなたのお考えは?]
純銀のカトラリーが、音を立てて皿に落ちた。
[……失礼しました]
言葉が終わらぬうちに、サーラは突然口を押さえた。
チーズワゴンのサービングを前に、込み上げてくるものを必死にこらえてる様子だった。
会話が止まり、微かな緊張がテーブルを包む。
気まずさに耐えきれず、サーラは椅子を引くと、小走りでレストルームへと姿を消した。
呆気にとられた顔が追いかける。
長い沈黙。
異様な空気の中で、ジェイだけが平然とフロマージュを選んでいた。
[……まさか……]
マリアンヌの声は、どこか遠い意識から発せられたようだった。
だがその声は、彼らの脳裏に浮かんだある疑念を、確信へと導いた。
マティーの目が確認するようにジェイを探ったが、それもマリアンヌの昂ぶった口吻に消されてしまった。
[私も、フロマージュの匂いが突然ダメになりましたの。ああ、なんて嬉しい日なのかしら]
フィリップは毒気に当てられたように、娘の婚約者を見つめている。
[……挙式は、早めたほうがよろしいようですね]
[そうですわね。六月など、ちょうどよい時期ですこと]
せっかくの通謀が無駄になったが、目出度いことならと、茫然とするフィリップを置き去りにして、再び狐と狸が協議を始める。六月初旬の挙式が合意されてようやく、フィリップは我に返り、尻を二度三度ゆすって姿勢を正した。
[いや、それではそちらの仕事の都合が──]
[私は構いません]
あっさり同意するジェイに、花嫁の父は怒りと憎しみと恨みが混濁した目を返した。
愛娘の貞操を犯されただけでもショックなのに、そのうえ孕ませておいて悪びれないとは──と、顔に書いてある。