桜ふたたび 後編
肝心のサーラの表情は堅い。テーブルに着いたときから顔色も悪く、食事も進まない。

ジェイはゆっくりと首を回してサーラの伏せた横顔に視線を当て、低く問いかけた。

《あなたのお考えは?》

サーラの手元で純銀のカトラリーがガチャンと不作法な音を立てた。

《失礼しました》

言葉が終わらぬうちに、サーラは口を押さえた。チーズワゴンのサービングを前に、苦しげに込み上げてくるものを必死に耐えている。

青ざめた顔に、六ツの不審な目が集中する。彼女はたまらず席を立つと、小走りでレストルームへと向かっていった。

呆気にとられた視線が追いかける。長い沈黙、異様な空気の中で、ジェイだけが平然とフロマージュを選んでいた。

《まさか……》

マリアンヌの声は、どこか遠い意識から発せられたようだった。だがその声は、彼らの脳裏に浮かんだある疑惑を、確信へと導いた。

《私もフロマージュの匂いが突然ダメになりましたの》

マリアンヌは、マティルダに向かって昂ぶった口吻を洩らした。
フィリップは毒気に当てられたように、娘の婚約者を見つめている。

《挙式は早めた方がよろしいようですね》

《そうですわね》

マリアンヌは声を弾ませた。
せっかくの通謀が無駄になったが、目出度いことならと、茫然とするフィリップを置き去りにして再び狐と狸が協議を始める。五月初旬の挙式が合意されてようやく、フィリップは我に返り、尻を二度三度ゆすって姿勢を正した。

《いや、それではそちらの仕事の都合が》

《私は構いません》

あっさり同意するジェイに、花嫁の父は怒りと憎しみと恨みが混濁した目を返した。愛娘の貞操を犯されただけでもショックなのに、そのうえ孕ませておいて悪びれないとは、と顔に書いてある。
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