桜ふたたび 後編
番号通知は──弟の悠斗。
また上司のお供で東京に来ているのかもしれない。
このあいだ出張のついでだとひょっこり訪ねてきたときは、接待の予定があるとすぐに帰ってしまったから、今度はゆっくりできたらいいけど。
〈澪……〉
声が暗い。
「なにかあったの?」
〈ちょっと、頼みがあって〉
「うん、なに?」
〈金、貸してくれへんか?〉
「お金? どのくらい?」
〈……二千万〉
澪は花鋏を落とした。
「にッ、ニセンマン⁈」
〈あいつ……、ジェ、ジェイさんに、頼んでくれへんかな? 澪がそういうの一番嫌うの、わかってんけど……〉
切羽詰まった声。
あれほど毛嫌いしていたジェイを頼るなんて、よほどのことだ。それにしたって、金額が尋常ではない。
「そんな大金、何に使うの?」
悠斗は、長い長い沈黙のあとで、
〈……ごめん、忘れて〉
「聞いたものは、忘れられないよ」
〈ええから、忘れろ〉
「まさか……やばい女の子に手を出したとか?」
〈ちげーよ〉
「ギャンブルでこわいお兄さんに借金したとか?」
〈んなわけないやろ! 先輩のためや〉
「先輩って、篠塚さん?」
ジェイのやり口を真似してみたら、悠斗はやすやすと引っかかった。
しまった、という心の声が聞こえた気がして、澪はちょっと得意になった。
観念したのか、悠斗は仕方なさげに切り出した。
〈この間……イベントの話したやん?〉
そういえば──
プレミアリーグの試合を、VRを使ってライブストーミング観戦するイベントが、五月末に決まったと、誇らしげに言っていた。
〈それをな、中継会社が急に配信を断ってきたんや。理由を聞いても、エックスが何たら肖像権が何たらで、要領が掴めへん。チケット販売も始まってて、いまさら中止にもできひんし。
で、あちこち手ぇ回して、何とか配信OKな試合を探し出したんやけど……条件が厳しくてな。今週末までに前払いで全額入金せなあかんねん。
支払い済みの手付金もまだ戻ってこんし、どうかき集めても……あと二千万、足りん。大見え切った以上、本社に頼むわけにもいかへんやろし〉
一度口火を切ると、あとは一気。姉弟は同時にため息を吐いた。