桜ふたたび 後編
そこで会話が途切れた。
澪は気まずさを取り繕うように、「お母さんはお元気ですか?」とよけいなことを口にして、嫌みに聞こえたかと自己嫌悪した。

悠璃はそれには答えずに、切り出した。

「今日、伺ったのは、どうしても確かめたいことがあったからです」

「わたしに、ですか?」

澪は改まって姿勢を正した。それほど剣呑なものが感じられたからだ。

悠璃は澪から目を離さずに挑むように言った。

「わたし、結婚が決まっていたんです」

澪は目をぱちくりさせた。

「あ、それは、おめでとうございます」

と祝福して、相手の言葉が過去形だったことに、気づいた。

「本当なら今日、結婚式だったんです。でも、突然、彼の海外赴任が決まって、破談になりました」

澪には、彼女の言わんとするところがさっぱり飲み込めなかった。
ただ、挑戦的な物言いが緊張のせいだと言うことはわかった。珈琲カップに伸ばした指先が、白く震えていたから。

悠璃はぬるくなった珈琲をゆっくり喉を鳴らして飲むと、少し落ち着いたのか、カップをテーブルに静かに戻し、続けた。

「確かに、わたしは、せっかく掴んだ楽団員の仕事を手放したくなかったから、ついてきてほしいと言われても困ったんだけど、それにしてたって、式場はキャンセル済みで慰謝料も払うから、とにかくなかったことにしてくれって、一方的で。話し合おうにもそれきり連絡が取れないし。それで彼の家に行ったんです。そしたら、向こうのお母さんがこれを──」

言いながらバッグからテーブルの上に置かれた古い雑誌に、澪は悲鳴を上げそうになった。

悠璃はどんな表情の変化も見逃すまいという目で澪を見つめながら、折り目のついたページをさっと捲った。

「あなたなんですか?」
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