桜ふたたび 後編

『アランも追いつめられていたんだろう。ミロシュビッチは後継者候補にアブラモビッチを指命した。猜疑心が強い一匹狼が、掃討される危機感と焦りから、いつもの慎重さを欠いていた』

『まあ、そう仕向けたのも君なんだが。
しかし、いくら美しいからと言って、3Dでしか観たことのない国に住もうなんて、ミロシュビッチも案外ロマンチストだな』

美しい珊瑚礁のビーチに、アロハシャツにショートパンツ姿でふんぞり返っているミロシュビッチ──その滑稽な幻影を想像するだけで、笑いがこみ上げてくる。

『唐沢が巧妙に仕掛けた暗示誘導のおかげもあるでしょうけど、3Dにはサブリミナルが使われていたの』

『サブリミナル? そんなものに効果があるのか?』

ジェイが口端で意味深に笑った。

『どんな映像が挿入されてたんだ?』

『KGBによって白熊が銃殺されるシーン。そのあと、血みどろで引きずり回されて、無惨にも毛皮を剥がされて、内蔵を──』

もういい、と手でリンを止め、

『ミロシュビッチも、さぞかし悪夢にうなされただろうな』

ウィルは気持ち悪そうに肩を竦めた。

『これで、我々の復讐は成った。残るは──塔に隠した姫様の救出か』

ウィルがリンに向かって片目をつむる。

ここまでのオペレーションは、目標を攻略するための〝アイテム集め〞にすぎない。
ジェイの真の標的は、別にある。

ジェイは一瞬だけ目元を綻ばせ、そして静かに呼吸を整えた。
冷酷な沈黙の奥に、鋼の意志が浮かび上がる。

『──では、最後の仕上げに入ろう』

『Yes,boss.』
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