桜ふたたび 後編
『どういうつもりだ!』

『お訊きになったとおりです』

顔を真っ赤にして立ち上がったエルモに、ジェイは冷然と言った。

会議テーブルには、十三名の顔がある。
威風堂々とスクリーンに掲げられたAXのロゴマークを背にしたエルモは、末席で血祭りに上げられるジェイを高見の見物するつもりが、こともあろうかフェデリーコの会長職辞任を求める緊急動議が発議されるなど、まさかの大番狂わせだ。

『アルフレックス会長がシカゴに計画したシニア向け介護施設は、現地医療法人の買収に失敗し、現在も暗礁に乗り上げている。AXは推定7000万ドルの損害を被ったはずです。先般の株主総会で提示されたディスクロージャは、粉飾と言わざるを得ません』

『ダイベスティチュア(事業分割)で非公開株の独立法人になったはずだが?』

金融業界元CEOが白々と発言した。
アルフレックス家を除けば全員が独立取締役で、大手上場企業の元最高経営幹部たちだ。うち六名が在籍期間十年を超える長老。中でも彼は筆頭取締役として、経営陣から独立した取締役会運営の監督を担っている。

『ご指摘のとおり、MBO(経営陣買収)によって事業は移譲されました。問題は、その出資先となっているベンチャーキャピタルの株主が、彼の個人資産運用会社であることです。インサイダーに抵触する可能性がある。さらに、工事関係業者からのリベート供与が資金元となったのならば、フェディーの横領を告訴しなければなりません。もし、リベートではなく投資だと仰るのなら、ダイベスティチュアは成立しない』

誰一人として反論する者はいない。エルモが買収した三名までもが、すでに了承済みのように平然としている。
ジェイが裏工作をしたことは明白だ。

『何をこそこそと嗅ぎ回っている』

エルモは詮無いことを言って、ジェイから冷笑を返された。
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