桜ふたたび 後編
❀ ❀ ❀

防火扉のように会議室の扉が閉じられた。

静まりかえった室内で、フェデーは腕組みをしたまま目を閉じて微動だにせず、マティーは能面のような顔で視線を下げていた。
立ったまま、じっとジェイを睨みつけた、エルの顔だけが異様に赤い。

『話し合おう』

エルが呻くように切り出した。

『無意味です。速やかに株主に対する責務を果たしてください』

『身内を告発するような恥さらしをして、よくも平然としていられるな!』

『すでにアナリストが嗅ぎつけています。解任という汚名を着る前に、チャンスを作ったつもりですが。
ここで後手に回れば、あなたのポジションも危なくなりますよ。むろん、マティーも』

エルは急に無表情になった。
体内の怒りのエネルギーは、一層激しくなっているに違いない。目が真っ赤に充血して、憎しみをジェイの唇に突き刺している。

『まあいいだろう』

フェデーは独り言のように言うと、掌を下へ向けてエルに着席を命じた。
そして、アイスグレーの瞳をジェイへ向ける。

『私もリタイアにはいい歳だ。会長はエルに譲ろう』

『そうですね』

マティーは当然のごとく賛同する。
AXは創業家であるアルフレックスのものだと、信じて止まない。

『それでは責任をとったことになりません』

『父を陥れて、兄を蹴落としてまで、トップになりたいのか!』

上滑りで短絡的な兄に、ジェイは憐憫しか感じない。
彼が澪を襲撃などしなければ、ここまで彼らを追い込みはしなかったのだ。
< 207 / 270 >

この作品をシェア

pagetop