桜ふたたび　後編
❀　❀　❀

一週間が過ぎても、澪の行方はつかめなかった。

ブリュッセルで降りた女は、ＰＶ撮影だと金で雇われた中国人だった。
雇い主はすでに行方しれず。追ったところで無駄だろう。

ジェイの読み通り、事件の十五分後、ジェノバ港から一隻の大型貨物船がに出港している。

行き先は、モロッコのタンジェ港。
このルートが正解ならば、元ＣＩＡのウィルでも、元フランス対外治安総局員のレオでも、元アメリカ空軍特殊部隊のニコでも、澪の足取りを追うことは不可能だ。

窓の外に、昼の月が静かに浮かんでいる。
胸騒ぎに、ジェイはポケットの中のリングを、掌に握りしめた。

捜していた澪のリングは、彼女の指を離れ、エンゲージリングと共にバッグの奥に見つかった。

同じ箱には、カメオと一枚の写真も納められていた。
十六歳の誕生日に、叔母から贈られた生母の写真。
丘のパーゴラに埋めて封印していたものを、澪と掘り起こしたのだ。

〈一緒に、日本へ連れて帰ってあげましょう？〉

挙式のあとふたりして、悠斗たちと日本へ戻るはずだった。
あの温かな我が家で、仕事に邪魔されることなく、澪の云う〝平凡な新婚生活〞を送るために。

〈望めば、失う〉

澪の寂しげな声が聞こえたようで、ジェイは頭を振った。
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