桜ふたたび 後編
「伯父にわかってもらえるように説得を……」

〈成果は?〉

「口も利いてもらえません」

〈そうだろうな〉

「ごめんなさい……」

色とりどりの華やかな連発花火が始まって、深い群青の空に歓声が響いた。同じ風景の中で、澪の心だけが暗い。

〈わかった〉

ジェイが出し抜けに言った。

〈迎えに行く〉

澪は溜息をついた。

「だから、話を訊いてます?」

〈彼を説得したらいいんだろう?〉

「そうですけど……」

〈澪に任せていたらいつになるかわからない〉

「そうですけど……」

〈澪はいつでも発てる準備をしておいて、いいね〉

「ジェイ!」

遅かった。すでに通話は切れている。

澪は天を仰いだ。
彼の場合は説得ではなくディベートだ。論破して勝利しても、相手が納得したわけではないし、かえって感情のしこりを残して歩み寄れる譲歩点を見出だせなくなる。理詰めで口達者な人間を、伯父はもっとも嫌うから、決裂するのは目に見えている。そうなれば、ジェイは強奪も辞さないだろう。

──とにかく、荷造りしないと……。

再び項垂れた浴衣の肩に、月華が慰めるように降り注いでいた。
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