桜ふたたび 後編
❀ ❀ ❀


「ただいま」

迎えてくれる人はいないとわかっていても、自分だけでも声を発していないと、気がおかしくなりそう。

とたん、澪は目を瞠った。
歩きながら脱ぎ捨てたように、靴がてんでバラバラの方向に転がっている。
あわてて拾って玄関に揃え、喜び勇んでリビングのドアを開けると──

「どこへ行ってたんだ?」

ソファから体を起こしたジェイは、なぜかむくれている。

「あ、あの、柏木さんに書類を届けに……」

「ふ~ん」

ジェイは面白くなさそうに声を漏らし、

「彼が取りにくればいい」

勝手なことを言う。

柏木はジェイの部下ではない。澪名義の米国の銀行口座開設や、クレジットカードの契約やら諸々、意図がわからないジェイの個人的な用件を、ご厚意で助けてくださっているだけ。

だいたい、ジェイの帰国も、さっき柏木から訊くまでは、報されていなかった。

「お帰りは明日って聞きましたけど?」

精一杯不平をぶつけたつもりなのに、ジェイには効かない。腕を伸ばして澪の手を取ると、膝の上に抱き乗せた。

「早く澪に会いたくて、がんばって仕事を片付けた」

また調子のいいことを。
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