桜ふたたび 後編
❀ ❀ ❀


階段を上がってくる微かな足音に、ジェイは待ちくたびれた顔を上げた。

──やっとか。

手元のタブレットPCをナイトテーブルに放り、舞台の準備でもするようにシーツを整える。肩甲骨をぐるりと大きく回して、ストレッチ。

いつものことながら、澪のバスタイムは長い。
以前、いったい中で何をしているんだと覗いてみたら、湯船につかり気持ちよさそうに鼻歌を歌っていた。

──今日は珍しく御機嫌斜めの様子だったが、きっと気分もほぐれただろう。

ジェイはいそいそとバスシーツの端を持ち上げた。
それなのに、澪は一瞥しただけ。なぜか反対のドレッサーへ向かっていく。
鏡の前に座ると、何するでもなくただ黙座。齋藤家を出てから、一言も口を開いていない。

──予想以上に、ガゼボでの毒気がきつかったか。

薔薇の花影から覗き見たところ、テーブルを囲んでいたのは女性六名。
なかなか華やかな雰囲気で、マダムに選抜されるくらいだから、いずれも強者揃いだろう。澪の狼狽ぶりが目に浮かぶ。

「み〜お」

ガン無視。
それならばと背後からそっと近づく。

「久しぶりに会えたんだから、笑って」

両頬をつまんで引っ張ってみたが、澪は口を真一文字に結んで目も合わさない。
かえって状況を悪化させたなと、ジェイは頭を掻いた。
< 45 / 270 >

この作品をシェア

pagetop