桜ふたたび 後編

「女優の朝倉涼子さんも、こちらで学ばれたそうです。ご存知でしょう? フランスの大実業家とご結婚されて、今は芸能界を引退されてますけど」

嘴を挟んだのは董子だ。
実家が日本橋の名料亭で、彼女自身は夫と箱根でオーベルジュを経営していると言っていた。
ふっくらとしたおかめ顔に、富士額がのぞくアシンメトリーボブ。品の良いトラッド系の服がよく似合っている。
優子と同い年だそうだから、三十代前半か。

「メディアで紹介されたせいで、入校希望者が殺到したそうですが、サロンは少人数制がモットー。きちんとしたご紹介がないと入れないのよ」

優子の言葉に他の三人が、同じ角度で顔を傾け、同じような微笑みを澪へ向けた。

「素養のない方は、カリキュラムについてゆけず、すぐに辞められてしまうことが多いから」

人差し指と親指でカップを摘み持つ茉莉花の目が、「あなたのことよ」と、物申していた。

彼女とは、ガゼボで顔を合わせている。
父親は大手銀行役員、母親は有名な料理研究家、自身はテーブルコーディネイターとして活躍している……とか何とか紹介された気がする。

セミロングを大きくウェーブさせ、毛先は細やかな縦巻きに。額を出して整えられた輪郭は、いかにも王道をいく〝お嬢様〞。
優子や董子より若いけど、このグループではリーダーのようだ。

「でもぉ、いきなり上級クラスをご受講なんて、すごいですぅ〜」

舌っ足らずな声で甘えるような目を向けるのは、萌愛。
サロンの最年少で、ゆるふわのツイン三つ編み、フリルやリボンが大好きなガーリー系。小さく丸い瞳、肌はゆで卵を剥いたようにつるつるしている。
母親が有名エステティックサロンの社長で、彼女も役員だという。

自己紹介のとき、「毎回違う殿方が送り迎えにこられるのよ」と、優子が笑いながら補足してくれた。他の二人は一瞬しんとしたけど、優子に悪気はなさそうだったし、萌愛もはにかんで笑っていた。

「あの……初級クラスにも通ってますので」

「まぁ大変! 週二回もぉ?」

「それから、金曜日もなんです」

萌愛が飲みかけのアイスティーを吹き出した。はしたないと茉莉花に睨まれ、あわててレースのハンカチで口元を拭う。
< 48 / 270 >

この作品をシェア

pagetop