桜ふたたび 後編
「何をなさっている方?」
茉莉花の鋭い横やりに、澪はおどおどと答えた。
「えっ……と、会社員……?」
「まぁ! 澪さんってユニークな方なのねぇ」
下手なジョークにでも聞こえたのか、茉莉花以外はみな、口元へ手をやって上品な笑い声を立てている。
ジェイは部長に降格したから、間違ってはいないと思う。それも伯父との会話で聞き知ったことで、澪はジェイの仕事についてよく識らない。
彼はビジネスの話は一切しないし、英語で交わされる電話の内容は、暗号のような専門用語の羅列で、ちんぷんかんぷんだ。解説などされても、困るけど……。
「どちらの企業にお勤めなの?」
茉莉花の追求に、和やかな笑顔の輪が崩れた。
──どうしよう。AXの名を出して、ジェイに迷惑がかからないかな?
彼自身、社名を他言しない。イタリアでは、澪がアルフレックス家の関係者だと外に漏れることを、とても厭がっていた。
「もちろん、一流企業でしょう? 金融関係? それともIT系?」
茉莉花は引き下がらない。
優子たちは彼女の執念深さに、さすがにドン引いている。
「ずいぶんと秘密主義なのね」
茉莉花はますますムキになる。
「いえ、あの……」
「澪さん?」
肩の上から覗き込まれて、澪は仰け反った。
近すぎる顔が、にこりと笑った。