桜ふたたび 後編
柚木は怒りと恥ずかしさと諦めの混ざった惨めな表情で、

「先に焼香させてもらおう」

紗子の二の腕を掴んだ。

夫に一瞥をくれ、それでもおとなしく歩き始めた紗子だったが、澪とすれ違いざま、いきなりその喉元に噛みつきそうに顔を寄せ、言った。

「人様の家庭を滅茶苦茶にしておいて、自分だけ幸せになるつもり?」

「おい!」

上体が後ろに廻るほど強い力で肩を引っ張られ、紗子はまるで被害妄想の患者のように辺りを憚らず叫き声を上げた。

「そんなこと、神様も仏様も赦さへんわよ!」

ぎぎぎぎ~と声を上げて、懸巣が樹上から飛び立った。

澪は鳥影を追うように空を見上げた。青やかな空に真っ白な羊雲が、稜線に吸い込まれるようにゆったりと流れていった。
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