桜ふたたび 後編
『マシーンはC02FW012PA78、黒いウィネベーゴのなか。NEWYORK4RF776(エヌイーダブルワイオーアールケーフォーアールエフセブンセブンシックス)。カ、カールは、メルと、ゲームした』

『メル?』

『コンプリートしたら、メルのママンがホットドッグにピーナッツバター、塗ってくれる。車はNEWYORK4RF776(エヌイーダブルワイオーアールケーフォーアールエフセブンセブンシックス)。メルはへ、下手。こ、こどもだから、しかたない』

ぼそぼそと言う。

『だ、だから、カールが〝promachos' atene 〞を、捕まえてあげた』

リンがアッと声を上げ、レオが微かに瞳を揺らしたのを目撃して、ウィルは何のことだとジェイを見た。
ジェイは毫も表情を動かさない。

『信じられない。メインフレームが攻撃元だったなんて……。対ハッカー用攻撃プログラムが作動した形跡も、なかったのでしょう?』

『しかし、彼は〝アテナ〞に辿り着きました。UEBAアラート(ユーザーの挙動解析システム)も突破して』

『不可能だわ。天文学的な組み合わせよ』

『金融システムに侵入するよりは、容易いな』

ジェイは平然と言う。

最新鋭のセキュリティシステムも、しょせんいたちごっこ。針の穴ほどの脆弱をつく侵入者を、監視し審査できる人間の目が必要だ。
そう考えると、襲撃事件の際、ジェイを庇ったニコが負傷したのも、偶然だったのか疑わしい。

『ニコに連絡を。マルウェアが仕掛けられている可能性がある』

『車を押さえますか? 手がかりが残っているかもしれません』

『いや』

短く否んだジェイの唇が、次に動くのを待つように、会話が途絶えた。
その僅かな隙に、ローラはテーブルに身を乗り出し、ジェイに取りすがった。

『どうか……カールにご慈悲を……』

──この人たちはみな、彼の到着を待っていたんだ。息子の命運はすべてこの男にかかっている。

ローラは必死だ。
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