桜ふたたび 後編
❀ ❀ ❀
一時間後、会場を抜け出したジェイは、星空の下に延々と広がるフランス式庭園を眺めていた。
ブロンズ像が並ぶビスタ(中央道)を中心に、左右対称に平面的で幾何学的に整えられた庭園。ヴォー・ル・ヴィコント城の名園を彷彿とさせる構造だ。
川から水路を引き、睡蓮の人工池やカスケード(人工滝)を巡らせ、白鳥たちの休む濠まで水を流している贅沢な様は、フランス貴族文化の真髄を見るようだった。
デュバル家の邸宅は、パリの高級住宅地・パッシーとマレ地区にあるが、週末は、ホテルとしても運用しているこのバビルソンの古城で過ごすことが多いと、ジェイは一年前の調査で知っていた。
先刻の雷雨で空気中の塵が洗われたのか、視界が澄んでいる。
森の上に、星がひとつ流れた。
──澪……。
今、堪らなく澪に会いたかった。
流れ星のリングが光るあの指に、何度愛を誓っただろう。
近づいてくる軍人のような靴音に、甘い回想を破られて、ジェイはやれやれと振り返った。
ルナがドレスの裾を膝までたくし上げ、大股でやってくる。両親に直談判してきたのだろうが、不調に終わることはわかっていた。
ジェイは、リムジンのウインドウをノックした。
居眠りしていた運転手は、口元の涎を拭きながら、あたふたと降りてきた。
『ジェイ、どういうつもり? こうなることがわかってたんでしょう?』
ルナは怒りに任せて車に乗り込むと、オペラグローブを苛立たしげに脱いで、対面のシートに叩きつけた。
『君のCIA並の情報網でも、掴めなかったのだろう?』
返す言葉もなく、ルナは歯がみした。
ジェイは、シートに深く身を預けると、静かに目を閉じた。
車は、正門を出て森の闇の中を静かに走る。
やがて、星影が一帯の小麦畑を蒼海のように照らし出したとき、ルナはこれ以上は黙っていられないとばかりに、兄に向かって身を乗り出した。
一時間後、会場を抜け出したジェイは、星空の下に延々と広がるフランス式庭園を眺めていた。
ブロンズ像が並ぶビスタ(中央道)を中心に、左右対称に平面的で幾何学的に整えられた庭園。ヴォー・ル・ヴィコント城の名園を彷彿とさせる構造だ。
川から水路を引き、睡蓮の人工池やカスケード(人工滝)を巡らせ、白鳥たちの休む濠まで水を流している贅沢な様は、フランス貴族文化の真髄を見るようだった。
デュバル家の邸宅は、パリの高級住宅地・パッシーとマレ地区にあるが、週末は、ホテルとしても運用しているこのバビルソンの古城で過ごすことが多いと、ジェイは一年前の調査で知っていた。
先刻の雷雨で空気中の塵が洗われたのか、視界が澄んでいる。
森の上に、星がひとつ流れた。
──澪……。
今、堪らなく澪に会いたかった。
流れ星のリングが光るあの指に、何度愛を誓っただろう。
近づいてくる軍人のような靴音に、甘い回想を破られて、ジェイはやれやれと振り返った。
ルナがドレスの裾を膝までたくし上げ、大股でやってくる。両親に直談判してきたのだろうが、不調に終わることはわかっていた。
ジェイは、リムジンのウインドウをノックした。
居眠りしていた運転手は、口元の涎を拭きながら、あたふたと降りてきた。
『ジェイ、どういうつもり? こうなることがわかってたんでしょう?』
ルナは怒りに任せて車に乗り込むと、オペラグローブを苛立たしげに脱いで、対面のシートに叩きつけた。
『君のCIA並の情報網でも、掴めなかったのだろう?』
返す言葉もなく、ルナは歯がみした。
ジェイは、シートに深く身を預けると、静かに目を閉じた。
車は、正門を出て森の闇の中を静かに走る。
やがて、星影が一帯の小麦畑を蒼海のように照らし出したとき、ルナはこれ以上は黙っていられないとばかりに、兄に向かって身を乗り出した。