桜ふたたび 後編

『どうするの?』

ジェイはゆっくりと目を開け、窓へ首を回した。

『簡単なことだ、私か君か、どちらかが〝仔羊〞になればいい』

『私は厭よ!』

あのいけ好かない野郎のキスを受けるなど、想像しただけで、鳥肌が立つ。

『それでは、私だな』

冴え冴えとした口調に、ルナは目を剥いた。

『冗談を言わないで! ミオはどうするの!』

声を荒げて、ルナは「アッ」と発した。

──ジェイは、わかっていた。わかっていながら、罠に飛び込まなければならなかったんだ。

ルナはじっと考え込んだ。
車窓に小さな灯りがひとつ流れていった。

彼女はツイっと顔を上げた。
そして、まるで悪魔の知恵を耳元に囁く堕天使のように、真顔で言った。

『振り落とされる前に、既成事実を作ってしまいなさい』

『無茶言うなよ』

と、苦笑したその瞳は、笑ってはいなかった。
< 91 / 270 >

この作品をシェア

pagetop