まじないの召喚師3
闘志に燃えた十の瞳がツクヨミノミコトを捉える。
「まだやるのかい? もう君たちの相手は飽きてしまってね」
「勝手に飽きるなよ。俺たちはまだ、吹っ飛ばされたお礼をしてねえんだから」
「不屈の闘志は人間の美徳さ。認めよう。だけどねえ、それを向けられる相手が自分となると、面倒な事この上ないね」
「余裕でいられるのも今だけだよぉ?」
近接戦闘を得意とする者が一斉に飛びかかった。
彼らを嘲笑うように、人形はそのことごとくをギリギリで潜り抜ける。
「あはっ。頑張るねえ。うっかり、わざと負けてしまおうか、なんて思ってしまう」
「ガハハっ! つれないことを言うな!」
拳が唸る。
「まだまだ借りがのこってるんだからねっ!」
大型の蕾が花開くと同時にマシンガンのごとく発射された種。
全てが面白いように当たらない。
「あははっ、無駄だって、わからないかなぁ?」
挑発するように無防備を晒す次の瞬間には軽快な動きを見せていたツクヨミノミコトに、突然、異変が起きた。
「おや?」
滑らかだった動きは油が足りなくなったように鈍くなり、棒立ちで墜落した。
「おやおや? 身体の自由がきかなくなった」
「………この家の結界を張ったのは誰だと思ってる?」
響は、整った顔を半分以上覆うもさもさ髪の下で、口の端をニィッと吊り上げる。
「あははっ! なるほどなるほど。先輩と雷地少年、筋肉達磨を囮に、ぶりっこは攻撃に見せかけた種を散らし、それを利用して響少年が即席の結界を作り上げたのか! いつ、そんな合わせ技を覚えてきたんだい?」
「即興だよ!」
先輩が跳躍し、墜落中のツクヨミノミコトへと肉薄する。
「いけ! 桜陰!」
「負けんじゃねえぞ!」
「ボクがここまで手を貸したんだから、決めてくれなきゃ」
「………同じく」
「ははっ。これじゃあ私が悪者みたいじゃあないか」
「ワルモンだろ。何度もぶっ飛ばしやがって!」
桜陰の怒りの一撃は、ツクヨミノミコトを戦闘の跡が色濃く残る焦げた泥だまりに叩き落とした。
隕石でも落ちたように地面を抉り泥が高く飛び散る。
「やったか?」
「それ、やってない時のセリフ」
常磐と雷地が警戒を解かないまま墜落地点を覗きにいく。
「不吉なこと言わないで」
「………もう、霊力残ってない」
小柄組がふらつきながら彼らに続く。
肩で息をする先輩の横から、私もそこを見た。
泥に浮かぶ繊細なドレスから糸が伸びて、外れた手足。
少し離れたところにある生首の、銀髪の美しいビスクドールは頬にヒビが入っていた。
人外の美しさ故に愛されたであろうそれは文字通り、壊れたゆえに捨てられたおもちゃのようなもの悲しさがある。
「は、っ、やった」
先輩が小さく声を上げて、拳を握った。
「ホントに………」
「俺たち……」
「やっ………」
じわじわと勝利の実感が湧いて、同盟者は柄にもなく肩を組もうとした時。
「アハッ……」
ひび割れた声がした。