まじないの召喚師3
第5章




毎日のようにあった襲撃が止んで、ひと月になる。

私たちはちゃぶ台を囲んでノートと参考書を広げていた。



「ヒマぁ」



「運動不足だ!」



「誰でもいいから遊びに来てくれないかなぁ」



「座学は飽きた! 実技だ! 実戦だ!」



かたやペンを指先でもてあそびながら、かたや積み上げた参考書で指先の筋トレをしながら。

好戦的な二人がそれを言うようになって、ひと月になる。

現在進行形で甘い香り漂わせる、キッチンの主たる先輩曰く。



「人を蹴落とそうとするバカ共は、今の時期、筆記試験の勉強に忙しいんだよ」



だそうで、私も追い込み勉強真っ最中なのだ。


同盟者たちは余裕そうですね、いいですね、英才教育の賜物ですね。

いつもなら暇暇大合唱、ついには大乱闘が始まるのだが、今日は違った。



「来てくれないならこっちから行こうかなぁ」



「待つのは飽きた!」



「仕掛けてきたらいいじゃん。その間、ボクは響と愛を確かめ合うから」


今にも飛び出していきそうな雷地と常磐に、柚珠が響に抱きつきながら手をしっしっと振る。



「柚珠がそんな事言うなんて珍しいねぇ」



「ワハハッ! 今日は槍でも降るのか!」



「はぁ? 馬鹿言わないで。響はここにいるんだもん。アンタ達とつるむより、響といる方を選ぶに決まってるじゃん?」



「………離れて」



「ああん。素直じゃない響もかぁいいっ」



「ぁっ、ん。………や、め…………」



日を追うごとに、桃木野柚珠のスキンシップは派手になった。

押し返す響も、まんざらではなさそうで抵抗は弱い。

それも、長い時間をかけてギリギリを攻め続け、時に超過し後退しながらも攻め続けた柚珠の執念の結果だ。


流され続けた響の諦めの結果ともいえる。

仲良きことは美しきかなだよ。

夜這いの騒々しさも消えて万々歳だよ。


でもさ、人前でちちくりあうのはやめていただきたい。

そこまで堂々としていいとは言っていない。

公序良俗がうんぬんかんぬんごにょごにょ………。



「幼馴染で男同士のそんなとこ、見せられる俺らの身にもなってよ」



雷地よ、よく言った。


私は心の中でガッツポーズ。


もっと言えと念を送る。



「見せつけてるの。ボクの響はこんなにも可愛いんだから」



「ハハッ! 響は知らなけれ女子に見えるな!」



「見るな変態」



「隠せ変態!」



「離して変態……!」



「変、態。シャキーン! ワハハハッ!」



変態という単語だけで、小学生男子のようにはしゃぐ同盟者たち。

これだけ見ると、普通の高校生のようだ。


しかし、今ではない。

念は届かなかった。



「うるさい、集中できない、わからない…………」



私は突っ伏して、頭を掻きむしる。


参考書の、これ、なに。


文字は読めるけど意味が全く入ってこない。

その時、キッチンの方から漂う甘い香りが強くなった。



「てめえらは相変わらずだな」



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