まじないの召喚師3
先輩が大皿を両手に、山積みされたパンケーキを運んできた。
「おやつのじかんー」
「おやつー」
後ろを歩く子供たちは、一斗缶サイズのはちみつ瓶と、大盛り生クリームのボウルを抱えている。
胃もたれするほどでろあまそうなそれは、誰が食べるの?
ちゃぶ台の勉強道具を後ろに退かして、代わりに平皿とフォークとナイフが配られる。
中央に置かれた山積みパンケーキから、先輩が1枚づつ配り終わると。
「いただきます!」
「いただきます!」
子どもたちの号令で、食べ始めた。
私が一口サイズに切り分けている間に、フードファイターもびっくりな速度で1枚目を食べ終え、2枚目を皿に乗せた雷地が、ナイフの先でピッと桜陰を差した。
「桜陰、この後、俺と手合わせしよーよ。最近ご無沙汰でしょ?」
その言葉に、戦いに飢えている常磐が両頬にパンケーキを詰め込んだまま同意する。
「そうだそうだ! すぐに部屋にこもって何してるかしらんが、たまには出てこい! ナヨナヨとした奴等とやりあっても張り合いがない!」
「それ、俺に言ってる? 術師が肉弾戦に乗るわけないよねぇ」
「雷地って、術師だったの? 近接戦もやれるでしょ」
「今まで俺の何を見てきたのかな?」
「ごめんねぇ。自意識過剰チャラ男に興味はないんだ」
柚珠は首を軽く傾け、ウインクして舌をちょっとだけ出す。
雷地の頬が引き攣って、笑顔に影が差す。
「生成した剣を飛ばす中距離がメインだからね? トラップ設置の妨害しか芸のない柚珠なんて、簡単に切り刻んで無力化できるねぇ」
「ふーん。………周囲に気をつけてね、プリン野郎」
「楽しみにしてるよ」
「ふふふふふ」
「あははっ」
柚珠と雷地は、微笑みあっているはずなのに、恐怖で震えた。
「健全な術は健全な肉体からだ! 正々堂々、拳をぶつけ合おうではないか!」
「………何度も聞いたよ筋肉馬鹿。………桜陰、同じ前衛担当として、引き取って」
「馬鹿言うんじゃねえ。まともにやったら刀が折れる」
「拳でやり合うんだ! 刀は折れん!」
常磐の筋肉が、戦いを待ちきれないと言いたげに怒張した。
それを見た私たちの顔色が悪くなる中、標的となっている先輩だけが反抗する。
「俺の腕が折れるわ! ったく、怪我が治るまでの間、誰が飯を作るんだ?」
「………僕が」
にょきっと上がった手は、響のものだ。
愛妻弁当、と喜びそうだなと思い、柚珠を見ると、顔が心なしか青白く、引き攣っていた。