再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
向けられた鋭い眼差しと言葉に、恐らく過去の悪評を知っていると推測したが、どう返答すべきなのか困惑する。


「武居さん、お待たせしてすみません……おや、どうかされましたか?」


開け放したままの扉から入ってきた渕上さんが、男性に尋ねる。


「いや、注意事項を伝えていただけだ」


返答するなり、男性は大きな木製の机に向かう。

その様子になにかを察したのか、渕上さんは小さく息を吐き、私に向き直る。


「紹介が遅くなってしまってすみません。驚かれたでしょう?」


「いいえ……あの」


「副社長、武居さんです。今日から副社長の秘書をしていただきます」


「……嵯峨惺だ」


切れ長の目を細め、書類を手に取りながら自己紹介される。


やっぱり、この人が御曹司……! 


事前に確認していた資料通りの華やかな容姿だけれど、中身は想像とは違っていた。


「武居、希和です。どうぞよろしくお願いいたします」


震えそうになる声を必死に絞り出し、頭を下げる。


副社長は東京本社勤務と聞いていたのに、なぜ、ここに?


私が彼の秘書って、なんで? 


予想外の展開に理解が追いつかない。


第一印象どころか、最初から嫌悪している私を本気で雇うつもり?


「副社長、武居さんに業務内容の説明をしたいのですが」


「俺からの必要事項は伝えた。後は任せる」


「わかりました。では武居さん、一緒に来てください」


渕上さんに促され、慌ててもう一度頭を下げて退出する。

副社長は一切私に視線を向けなかった。

秘書経験があるのに、副社長室だと気づかなかった自分の愚かさを呪いたくなった。
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