再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
「どうぞ休んでいてください。起こして申し訳ありません」


「いや、お前のほうが疲れているだろう。眠っていないんじゃないか?」


「大丈夫です、お腹は空いていますか?」


早口で返答する。

バレていないならこのまま誤魔化したい。


「そうだな。少し減っている」


「すぐにご用意しますね。キッチンをお借りします」


彼の言葉にかぶせるよう告げ、逃げるようにダイニングルームへ向かい冷蔵庫を開ける。

昨夜、念のため最低限必要になりそうなものを買っておいてよかった。

勝手に冷蔵庫を物色した件は目を瞑っていただこう。

戸棚を探し回って見つけた鍋でおかゆを作り、寝室に戻ると、副社長はぐっすり眠っていた。

熱もないようだし、起こすのは忍びなく、メモ書きと薬、水をベッドサイドにそっと置いた。

このマンションはオートロックで施錠が可能なので、キッチンを片づけて部屋を出た。

病人を放置するのは気が引けるが、あのまま部屋にいて平常心を保てないし、噂通りの人間だと思われたくない。

なにより、思いがけない優しさに触れて誤魔化せなくなった感情が怖い。

今ならまだ、勘違いだと言える。

分不相応な、叶わない想いなんて抱きたくない。

重い息を吐くと、バッグの中のスマートフォンが振動した。

取り出すと渕上さんから【今から向かいますので、武居さんは帰宅してください】とメッセージが届いていた。

絶妙なタイミングに安堵してしまう。

渕上さんは昨夜、大変だったのだし私が看病すべきだ、と葛藤しているとさらにメッセージが届いた。


【妻が看病を交代してくれたので、睡眠もとっています。気兼ねなく帰って下さい】


結局、渕上さんの厚意に甘えて帰宅した。

出迎えてくれた母に副社長の様子を簡潔に話し、浴室に向かった。

熱いシャワーを浴びても気持ちはまったくすっきりしなかった。
< 27 / 200 >

この作品をシェア

pagetop