再縁恋~冷徹御曹司の執愛~

4.不器用な女~SIDE惺~

バタンと玄関ドアが閉じる音で目が覚めた。

腕の中の温もりが消えていて、少なからず打ちのめされている自分に驚く。

ベッドの中で耳を澄ますが、人の気配を感じない。

きっと彼女が帰ったのだろう。

彼女の不在に寂しさを感じ、苦笑する。

数年ぶりの発熱で心が弱っているようだ。

身じろぎすると、つらかった頭痛がずいぶん和らいでいた。

何気なく額に手をのばすと、冷却シートが貼ってあった。


「……アイツか」


ゆっくり目を閉じると、瞼の裏に先ほどまでここにいた秘書の姿が浮かんだ。

札幌で新規事業を任されたときは、大きな責任を感じた。

支社は本社に比べるとどうしても規模が小さい。

刻々と変わる現地の事情、しかも報告にはなかなか上がらない密接な地元の繋がりなどは頭の痛いところだった。

そのなかで札幌の老舗企業、名家である蔵元家から必要な情報を得られたのは有難かった。

父親の人脈のおかげなのは少々苦々しいが、現地事情に詳しい有能な秘書派遣の提案はとても助かった。

帰国直後で俺の専属秘書もまだ決まらず、本社室長の渕上に同行を頼んだ。

俺の秘書に名乗りを上げる人間は大抵、男女問わず安易な玉の輿狙いか権力狙いのどちらかで辟易する。

さすがに紹介された秘書は信頼できるのではと思いつつも調べてみれば、驚くほど悪評付きまとう女だった。

暗澹たる思いで調査報告書に目を通すと、勤務態度や仕事面での評価は高く、蔵元の御曹司のお墨付きだ。

ちぐはぐな結果に不信感を覚え、より詳細な調査を依頼した。
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