再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
「副社長、くれぐれも無理強いはなさらないでくださいね」


「わかっている」


返答に渕上さんは軽く肩を竦めて、部屋から退出した。

理解できない上司の言葉と予想外の行動に慌てて、目が泳いでしまう。

扉が閉まると、副社長はさらに距離を縮めてくる。


「ふ、副社長?」


「今から外出する。一緒に来てくれ」


淡々と告げられ瞬きを繰り返す。

これまでは、内勤や買い出し等の雑務がほとんどで帯同はほぼなかった。


「い、今からですか?」


「行くぞ」


長い足で扉に向かう姿に慌てて、呼び止める。


「待ってください、どちらに向かわれるのですか? 資料の準備をいたします」


「必要ない」


振り返り、ぴしゃりと言い放ったが、すぐに眉間に皺を寄せて大きく息を吐いた。


「……悪い。約束や資料、その他の段取りは渕上に任せてあるから、ただ一緒に来てくれないか」


バツが悪そうに話す副社長に瞬きを繰り返す。

なぜただの秘書に許可を求めるのだろう?


「キツイ言い方をして悪い」


困ったように艶やかな髪をかき上げる仕草に、心が乱される。

 
「……いいえ。失礼ながら、副社長は私との会話がご不快なのではと思っておりましたので……」


「違う! いつも助けられているし、感謝もしている。これまで不愉快な思いをさせて悪かった」


「謝らないでください。私のほうこそ至らずに申し訳ございません」


思いがけない謝罪に慌てて首を横に振ると、彼はなぜか優しい表情で私の顔を覗き込む。
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