再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
「先日は熱に倒れた私を手厚く看病してくれました。彼女ほど素晴らしい人はいません」


「女性に厳しい嵯峨副社長にここまで言われるなんてすごいな、武居」


「いえ、そんな」


副社長の賛辞と態度に困惑する。

取引先にここまでくだけた会話をしていいのだろうか。


「願うなら、プライベートもともに過ごしてほしいですね」


「へえ、武居にもやっと春が来たか」


飄々と話す副社長に、宗太先輩は楽しそうに口角を上げる。

とんでもない展開に思わず目を見開く。


「必死で口説いている最中ですので、蔵元専務に応援していただければ幸いです」


「ええ、もちろん」


ふたりの男性はなぜか意味深に笑い合う。


まさか……冗談、よね? 


ただの軽口よね?


平静を装うけれど背中には嫌な汗が滲む。


「武居、頑張れよ」


なにを、ですか? 


うっかり心の声が漏れそうになるのを必死でこらえる。

なぜか楽しそうな宗太先輩の応援を受け、私たちは蔵元株式会社を後にした。

会社へと戻る道中、整った横顔を助手席からそっと見つめる。

今回の訪問はいつもの社用車ではなく彼の愛車で向かっていた。

車に疎い私ですら知っている紺色の高級外車の乗り心地は最高だが堪能する余裕はない。
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