再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
「東京出張のときに、ばったり再会したんだ。手塚を怒るなよ? 俺が強引にお前の近況を聞き出したんだから」


ハハッと明るく言い放つ先輩は、北海道を代表する土産菓子の開発、販売を手がける蔵元株式会社の御曹司だ。

現在二十六歳の私より二歳年上で、今春、専務に就任したと聞く。

両親の転勤で高校時代に東京から北海道に引っ越し、大学に進学した私は、札幌の中堅商社に就職した。

ちなみに杏実は東京から札幌の大学に進学し、都内で就職している。

ところが昨年末、勤務していた会社の経営が悪化し他社に吸収合併された。

その際に私も含め、大勢の社員が退職を余儀なくされた。

役員秘書だった私は同種の職業を探している最中だ。

貯蓄はしているが今後を考えると、札幌市内のワンルームの自宅を引き払って実家に戻るべきか悩む。

けれど、今夜先輩と再会した途端、秘書の打診を受けた。

懇意にしている取引先が札幌で官民一体の事業を展開するため、現地に詳しく有能な秘書を探しているという。


「祖父の古い友人の会社なんだ。海外から帰国したばかりの孫が副社長に就任して、事業を任されるそうだ」


「そんな重要情報を私に伝えて、大丈夫ですか?」


「先方から許可は取ってあるし、お前は言いふらさないだろ」


信頼は嬉しいが、詳細を聞くとますます断りにくくなる。
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