再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
「もったいない言葉を、ありがとうございます」


「良い返事をいただけるよう期待しています。今日はもう帰って週末をゆっくり過ごしてください」


渕上さんと寒河さんだけは私たちの関係を知っている。


惺さんの婚約のお荷物でしかない私を、なぜ誘うのだろう?


曖昧にうなずき、荷物をまとめ重い体を引きずり退社した。

帰りにスーパーに寄りたかったので、電車を選択したが、タクシーに乗ればよかったと後悔する。

心が弱りすぎたせいで体に不調をきたしているのか、最近は食べ物の匂いがつらい。

そのため、少しでも口に入れられそうなゼリー飲料類を購入しようと考えた。

会社の最寄り駅に着いたとき、急に眩暈に襲われ足元がふらついた。

同時に前方から歩いてきた女性に肩がぶつかる。


「す、すみません……」


慌てて謝るが、気分の悪さに蹲ってしまった。


周りを通り過ぎていく人の足音や声が遠くに聞こえる。

嫌な汗が背中を伝い、鼓動が大きく響いて指先が冷たくなっていく。


「――大丈夫?」


そっと背中に触れた手と優しい声に顔を上げると、五十代くらいの女性が心配そうに屈んでいた。


「あら、あなた……嵯峨さんのところの……」


女性の言葉に体が強張る。


まさか、彼の知り合い?
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