再縁恋~冷徹御曹司の執愛~
「ええ、だって私たちを騙してもなんの得にもならないわ。なにより話の筋が通っている」


沢野井さんの穏やかな声にホッとしたせいか、ほんの少し吐き気がこみあげてきた。


「武居さん、大丈夫?」


気づいた女将が心配そうに尋ねる。


「すみません、平気です」


「相変わらず顔色が悪いけれど……貧血? 失礼だけど、生理中とか?」


「いいえ……」


否定しかけて、ハッとする。


待って、私……生理って先月来ていた?


慌てて記憶を探ると、予定日からすでに三週間以上遅れていた。

気づいた事実に愕然とし、さらに血の気が引く。


「多分……体調、不良です……」


やっとの思いで下手な嘘をつく。


「もしかして、遅れているの?」


女将の的確な指摘に体が強張る。

さらに冷静に最終生理日や現在の症状を尋ねられ、体も心も不調な状態ではうなずく以外できなかった。


「検査はした?」


沢野井さんの問いかけの意味を瞬時に理解して、首を横に振る。

退社後からの急展開に、理解が追いつかず、握りしめた指先が震えてしまう。


「ちょっと待ってて」


いうが早いか沢野井さんは女将に目配せし、バッグを手にして部屋を出ていった。

慌てて追いかけようとすると、女将に止められた。


「そんなひどい顔色で下手に動いてはダメよ。もし妊娠していて転んだら大変だわ」


はっきりと“妊娠”の可能性を口にされ、現実に怯えた。
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