飛べない小鳥は見知らぬ運命の愛に震える
 見回した商品はどれも素敵だった。華やかで美鷹にはぴったりだ。
 ひきかえ、自分は。
 胸もなくスタイルは悪い。センスがいいとも言えない。おしゃれしたつもりだったが、野暮ったくみすぼらしく見える。全身合わせてもここのワンピース一枚に負ける値段だ。
 いつもシンプルな服だった。目立つのが怖かった。オメガだと指さされることに怯えていた。
「琴鳥さん、こちらに」
 下の名前を呼ばれて、どきっとした。
 さあ、と手招きされたのは試着室だった。
「着てみて。きっと似合うから」
 言われるままに試着してカーテンを開ける。
「うん、やっぱりかわいい」
 琴鳥は顔を赤らめた。
「こんな服着たことなくて」
 胸元に華やかなフリルの付いた白いブラウス。スカートは細いプリーツ生地で、落ち着いたトーンの黄色に幾何学模様が入っていた。裾はアシンメトリーでふわりと自然に広がっている。
「似合うよ。こういうブラウスは私が着ると台無しなんだ。胸のボリュームが出過ぎて」
 美鷹は店員にこれをいただくと告げ、琴鳥にはプレゼントだよと笑う。
「つきあってもらうお礼だ」
 ランチも奢りだったのに、と断る琴鳥に、美鷹は言う。
「次のデートに着てくれたらいいんだ。――また会えるね?」
 琴鳥はすぐさま頷く。
 美鷹はまた笑った。
 そのあともお店を見て回り、すぐにプレゼントを買おうとする美鷹に慌てて断り、チョコレートショップのドリンクをお礼に奢り、2人で笑いあった。
 夕方には日の沈む富士を見た。暮れなずむ空に雄大にそびえている。
 富士がよく見える連絡橋の上で2人で何枚も写真を撮り、ツーショットの自撮りもした。逆光になってしまってうまく撮れなくて、また2人で笑った。
 近くのレストランで夕食をとり、帰途につく。
「時間があっという間だ」
 山間(やまあい)の高速道路を走らせながら美鷹は言った。
「私もです」
 久しぶりに何も気にせず楽しく過ごすことができた。
「うれしいよ。いい気晴らしになったようだ」
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