飛べない小鳥は見知らぬ運命の愛に震える
「そもそも運命の番なんてナンパの常套句じゃないか。騙されてるんだ」
「そんな……」
 そんなはずない。
 琴鳥はただの会社員だ。大金など持ってはいない。詐欺のターゲットになるとは思えない。
 美鷹はずっと優しくしてくれた。
 運命の番だと言ってくれた。
 だからこんなにすぐに強く心を惹かれたに違いないのだ。
 美鷹に会いたい。
「うわ!」
 男が鼻をつまんだ。
 琴鳥は急に体が熱くなった自分に驚く。ヒートが起きかかっている。
「フェロモンがもれてるぞ。発情しやすいタイプか」
「そ、そんなこと」
 そんなふうに言われたのは初めてだ。なんだか恥ずかしくなって顔に血が上る。
「すごい濃度だ」
 男は琴鳥を抱き寄せた。
 小鳥の胸が急に高鳴り、男の腕に抱かれるのが心地よくなってきた。陶酔感が眩暈のように琴鳥を襲う。ヒートのせいだ、と思うが抗うことができない。
「逃げろ」
 男がうめくように言った。が、その腕はがっしりと琴鳥を抱き込んで離さない。
 遠くからサイレンが近づく。
 男の顔が琴鳥に近づく。
 その途中、男は何かに抵抗するように止まる。
 琴鳥の動悸は止まらない。恋のようなときめきと恐怖がないまぜとなり、足が動かない。
 どうしてこんなことに。
 琴鳥はぼんやりしていく意識を必死にたぐりよせる。
 逃げなくては。
 そう思うのに、うまく手足に力が入らない。
「君たち、何をしている!」
 2人の制服警官が走って現れた。少し離れたところにパトカーが止まっていた。
 警官が2人がかりで男を引き剥がす。
「ポケットに薬が」
 男が息を荒くして言う。
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