飛べない小鳥は見知らぬ運命の愛に震える
 言われた警官が彼のスーツのポケットに手を入れ、錠剤を取り出して渡す。男はすぐに薬を飲んだ。アルファ用の、ヒートへの反応を抑える薬だった。
「フェロモンに反応したのか」
 警官に問われ、男はうなずく。
 もう1人の警官は琴鳥を誘導して彼から距離をとる。
 琴鳥も震える手で薬を取り出して飲んだ。
 警官は、悲鳴が聞こえたと通報があったと説明した。たまたま近くをパトロールしていたので到着が早かった。
「ヒートのときに出歩いちゃダメでしょ。危ないよ」
「仕事の帰りです。ヒートの予定もありませんでした」
 琴鳥は泣きそうになりながら反論した。
「どのみち、女の1人歩きは危ないから。今度から家族に迎えに来てもらうとかしなさい」
 琴鳥はショックを受けた。
 どうして被害者が注意を受けなくてはならないのか。
 暗くなるのが早くなったとはいえ、まだ7時にもなってない。
 それに、家族に迎えに来てもらえなんて言うが、そんな簡単なことじゃない。
 警官は身を守るために言ってくれているのはわかる。わかるのだが。
 いつもオメガが悪く言われる、と唇をかむ。
 体のラインを出した服を来ているのが悪い。
 遅い時間に外を歩くのが悪い。
 かといって自己防衛をしようとすると被害者意識が強すぎると叩かれる。
 何をどうやっても結局、叩きたい人達がいる限り、叩かれるのだ。
 家が近くだというと、警官は家まで送ってくれた。
 美鷹にこのことを伝えるべきか、迷った。
 心配をかけたくなかった。
 騙されている、と言われたことが心にひっかかったせいもある。
 ストーカーの言うことなんだから、と琴鳥は思い直す。
 美鷹に近づけたくなくて、嘘を言っているのだ。
 きっと私達は運命の番だから。
 今日だって、美鷹を思い出した途端にヒートを起こしかけてしまった。
 そして、ふと気がつく。
 運命の番という文言は、交際を終わらせる時の常套句でもあった。
 恋人同士や夫婦の一方に他に好きな人ができたとき「運命の番に出会った」と相手をふるのだ。ベータ同士でもよく使われる。
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