ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
 いつものふわりとした笑顔ではなく、どこか固い笑顔を貼り付けたメルヴィは、どんな時も頑なに握って離して貰えなかった手をするりとほどいた。
 

それは正に“背後まで人で埋まる前に、私を逃がしてくれる”ためで。
 

 そんな彼の行動の意味を察した私は、わざと一歩前に立ってくれたメルヴィの背後に隠れこっそりとその場から離れた。

 他の貴族に見つかる前に、と一人バルコニーへ出た私は扉の端で隠れるようにし柵へと寄りかかる。

「そもそもあんなに握り締めなくても逃げなかったんだけどな」


“それに、あの笑顔……”

 いつも私へと向けられる笑顔とは違う、貴族たちへ向けた『殿下』の笑顔。
 それは美しく、冷たく、固い偽物の笑顔。

 気になる。
 あの笑顔こそが本来彼が武器にしている笑顔なら、何故私にはその笑顔を向けたことがないのか。

“単純に私の魔法で恋をしているから?”

 それならば、本来私へと向けられるべき笑顔はどんな笑顔になるのだろう。

 冷たい笑顔?
 固い笑顔?

 それとも少しくらいは、無邪気でどこか少年のような笑顔を向けてくれるのか。

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