ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
 思わず私からハッとため息に似た笑いが零れ落ちた。


「リリ?」
「あ、なんでもないの」

 そんな私を心配そうに覗くメルヴィへ、なるべく明るく取り繕った表情を向ける。

「魔法を使いこなせていたらよかったのになって思っただけで」
「魔法を?」

 不思議そうに首を傾げるメルヴィに少し気持ちが浮上した。

「だって魔法がちゃんと使えれば」

 そこまで口にして、ハタと止まる。

 魔法がちゃんと使えれば師匠に置いて行かれることも、母に捨てられることもなかったのかもしれない、が。
 

 ――あれ。そもそも私、どうやって師匠のもとに行ったんだろう。

 いや、物理的に言えば母が連れて行ったのだ。
 十歳になった私を、この国で唯一定住している魔法使いであった師匠の家に預けに行った。それは私の記憶にもあるのだが。

“どういう経緯で師匠の家に行ったのか思い出せないわ”

 母とどんな話をした?
 母が興味があったのは何だった?
 連れて行ってと縋った気はするが、何故ダメだと言われたのだろう。
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