ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける

21.期待をしないって、何のこと

「ごめん、リリ……」

“泣いてるの?”

 私の奥まで自身を埋めた彼は、小さく呟くように謝罪を繰り返す。
 馴染むまでは動かさずに我慢してくれるのか、ぴったりとひっつけた体がやたらと熱い。

 相変わらず私の肩に顔を埋めているメルヴィを見ると、じんじんと痛みが続く下腹部よりも何故か心が痛くて苦しく感じた。


「……メルヴィ、顔を上げて」

 彼の名前をそっと呼ぶと、私を抱いているのも傷つけているのも彼の癖にビクリと体を跳ねさせる。

 まるで叱られる小さな子供のように、そろりと体を少し離した彼の頬を両手で包むとそのまま顔を持ち上げるようにして上げさせた。

“目が真っ赤じゃない”

 ぽろぽろと涙を零している訳ではなかったが、それでも赤く滲んだその目を見るとツキリと痛い。

 
 ――あぁ、彼は泣いてしまうのだ。

 私が師匠の後を追うと。
 私が魔女の習性に従うと。
 私が彼の前からいなくなると。

 それらを止められないことを知っているから、私を無理やりにでも傷つけることで彼の存在を刻みたいのだ。

“バカな人、本当にバカ人だわ”

 私はまだ師匠の後を追うと言ってないのに。
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