ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
 抗えないほどの興味を引く何かのために出ていこうとしている訳でもないのに。
 彼の前から消えることを決めてなどいないのに。


 ――私が本当はどう思っているかなんて、知らないくせに。
 

「刻んでと言ったのは私じゃない」

 確かに浴槽で、なんて思ってはいなかったけれど。

「間違えないで、私がメルヴィに頼んだのよ。私は傷付いてなんかないんだから」

 メルヴィのした行動は世間的には許されないのかもしれないけれど。

“そもそも今日はこういう予定だったし、流れが突然に変わっただけだわ”
 
 そして彼の行動で誰よりも傷付いたのは間違いなく彼自身だった。
 だって私は傷付いてなんかいないから。

“心臓が痛むのは、メルヴィが傷付いているからよ”

「私は不出来な魔女だから」

 そっと彼の髪を撫でる。
 少し湿り張り付くその明るい薄茶の髪がするりと指に通り愛おしいと感じた。

「だから、魔法が成功して欲しいってずっと思ってた。魔法がいつも失敗するから師匠にも置いていかれたし」
「……そう」
「けど、最近の私は魔法が失敗していて欲しいって思ってたの」
「失敗……していて、欲しい?」
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