ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
 そんなことをぼんやりと思い出していた俺は、服の袖が引っ張られていることに気付きやっと意識を今に戻す。
 袖を引っ張ったものが何なのか気になった俺がそちらへ視線を向けると、それは訪問者の子供だった。


「……なんだ、置いて行かれたのか」

 特に悪気なく事実を問うと、小さな赤い瞳が見開かれる。
 じわりと滲むその赤を興味なくただ眺めていると、あることに気が付いた。

“この子供、魔法を使ったのか”


 どんな願いでも叶えることが出来る魔法。
 リスクというリスクもなく、魔法使いの血が少しでも混じっていればその能力を使うことが可能で、発動できる魔法の強さはその血の濃さと『願いの強さ』に比例する。

 一見すると万能で夢のような能力ではあるが、実際は万能とはほど遠く、発動するにはかなり強く願わなくてはならなかった。

 ひとつの願いを叶えるためにかなりの気力を使い熱心に念じても釣り合わない結果しか生まれない、なんてこともざらである。


 例えば種を撒き、芽が出るように必死に願いやっと発芽したとして。

“実際に三日水やりするほうが簡単だ”

 何にも代えがたい願いを叶えられる可能性があるということは、人間にとっては魅惑的に見えるのだろう。
 だが魔法使い本人からすれば興味がないことがほとんどだった。


“不老不死を願う人間も一定数いるし、魔法使いが本気で不老不死を願えればそれは叶うのかもしれないが”

 不老不死ほどの願いを叶えるにはどれだけの時間を祈り願わなくてはならないのだと想像し辟易とする。
 そもそも俺が不老不死に興味がないんだから当たり前とも言えるのだが。


 だがそんな案外何も出来ない『魔法』をこんな子供が成功させたのか、と思うと少し興味が出た。

“何を願ったんだ? 成功した痕跡があるのにわからない。母親に関係することか?”

 気付けばすでにいなくなっていた母親を、もっとちゃんと観察すべきだったかと少し後悔する。
 もしここで俺が母親へ興味のベクトルを変えていればすぐにでも後を追ったのだろうが、幸か不幸か俺の興味を惹いたのはこの子供の方だった。


「名前は?」
「リリアナ」

 小さく名乗ったその少女の頭をそっと撫でた俺は、ぎょっとした顔を彼女から向けられ、そして俺自身も彼女をぎょっとして見つめる。

「撫でた理由は?」
「それ、私が聞きたいやつよ」

 思わず問うがその行動の答えは出なかった。

“まぁ、いいか”

 俺の興味はこのリリアナという子供に向けてであって、俺自身の行動に対してではないのだから。
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