月のない夜に青く溺れて ~彼は本能以上の愛で彼女を包む~
 笑うような声音だった。
「ニュースを見た。あちこちで某国からの輸入が激減しているって。飲食業の君には打撃なんじゃないかと思ってね」
「なんであなたがうちに?」
「最近の農家はネットで販売しているところもある。そういうところに交渉したら」
「もうやってるわ」
「うちは手広くITに関わってる。小規模農家へのアプローチもうちのシステムを使えば楽だけど?」
 華凛の眉がピクリと動く。
「気になるなら営業と話をしよう。君は俺に遺恨があるようだから、営業のほうが冷静に判断できる」
 華凛は唇をかみしめる。
 今は社長として冷静に判断しなくてはならない。
「……わかったわ。お願いします」
 保留にしてから、電話を営業部長に繋ぐように伝えた。
 秘書はすみやかにそのようにした。

 交渉の結果、朔が運営するネットのシステムを利用して野菜や果物を入手することが可能になった。
 安定した入荷にはならないが、一息つくことはできた。
「国産野菜フェアとか、地元農家応援フェアとか銘打って宣伝しましょう。野菜の供給が不安定だから入荷元が変わったとは思われたくないわ」
「伝えておきます」
 秘書は慇懃に答えた。
 鳳城朔にお礼の電話をしようとして、手が止まる。
 昨日は名乗らなかった。
 なぜ彼は自分がわかったのか。
 迷いを察したかのように電話が鳴った。
 秘書が彼女に取り次ぐ。鳳城朔からだ、と。
 ためないながら受話器で電話を取った。
「もしもし」
「華凛、俺は役に立てたかな?」
「どうして名前を知っているの?」
「運命の番だから」
< 10 / 45 >

この作品をシェア

pagetop